<連載コラム・欧州M&A最前線>2018年3月
この原稿を書きながら窓の外を眺め、英国にもようやく春が来たのではないかと期待している。今年はずいぶん待たされた。これほど長く厳しい冬に耐えた後には、きっと暑くて長い夏が来ると思いたい。
この原稿を書きながら窓の外を眺め、英国にもようやく春が来たのではないかと期待している。今年はずいぶん待たされた。これほど長く厳しい冬に耐えた後には、きっと暑くて長い夏が来ると思いたい。
このところ関心を集めている欧州連合(EU)「一般データ保護規則(GDPR)」の分野では、英スーパー4位のモリソンの元従業員アンドリュー・スケルトンが、同社従業員の個人情報をファイル共有サイトで公表し有罪判決を受けたことが話題となっている。
モリソンはこの件で、1998年英データ保護法(DPA)に基づく義務や守秘義務を怠り、個人情報の取り扱いを誤ったとして、従業員5,500人超により賠償請求訴訟を起こされた。判決では、同社がDPAに基づく義務を概ね順守していたことは認められたものの、従業員情報を無断で複写および公表した元従業員の犯罪行為に対し、間接的な賠償責任があるとされた。この判決は、企業がたとえデータ管理者としての義務を順守していても、従業員の独断による行動の賠償責任を問われることを意味する。
この件の背景を説明すると、問題の元従業員、スケルトンは、モリソンの上級IT(情報技術)監査役だった。スケルトンは2013年、別件で口頭の警告を受けた際、この処分に納得がいかず同社への報復を決意した。同年11月、同社では監査役らが給与データの監査を行った。通常なら、給与データにはごく一部のユーザーしかアクセスできず、安全な内部環境に保存されているので、スケルトンは手を出すことができなかった。しかし、作業を円滑に進めるため、監査役が要求する全データの照合が社内IT監査チームに任され、これをスケルトンが担当することになった。この結果、給与データが取り出され、USBドライブを経由してスケルトンのラップトップに移転された。スケルトンは監査役の要求通り情報を提供した後も、データの複写を保存していた。
2014年1月12日、モリソンの従業員約10万人の個人情報を含むファイルが、ファイル共有ウェブサイトにアップロードされた。そして間もなく、このウェブサイトのリンクがウェブ上のあちこちに掲載された。このデータは、氏名や住所、生年月日、収入、銀行口座などの個人情報から成るものだった。同年3月14日には、このデータのCDが国内各紙の元に届けられた。各紙はこれを公表せず、モリソンにデータの漏えいを通知。同社は数時間以内にデータ共有サイトからファイルを削除し、警察に通報した。
この判決からわかるように、企業はたとえデータ管理者としての義務を果たしていても、従業員が独断で取った行動について、たとえそれがその企業を意図的に狙った犯罪行為であったとしても、賠償責任を問われる可能性がある。こうした判決は明らかに緊張をはらむ。
データ管理者は、規制を順守していればGDPRに基づく高額の罰金を免れるかもしれないが、それだけでは集団訴訟で賠償金や訴訟費用の支払い責任を問われることを避けられない。こうした集団訴訟は、個人が起こすこともあれば、非営利団体が新規則により新たに与えられた権限に基づき、こうした個人に代わって起こすこともある。企業はこうした賠償責任の可能性に備えて、しかるべき保険への加入を検討したり、データ漏えい時にリスクを軽減するための手順を定めておくなど、適切な措置を講じておく必要がある。
この判例の詳細については、https://www.rpclegal.com/perspectives/data-and-privacy/vicarious-liability-of-data-controllers-the-morrisons-data-breach-case/ を参照されたい。
今月の興味深い取引を紹介する。
- 武田薬品工業は、アイルランドの製薬大手シャイアー(Shire)の全株式の買収を検討していると明らかにした。正式な買収案を提示する場合には、配当方針や信用格付けなどに関する厳格な投資基準に基づいて行うとしている。
- 鉄道車両のリース事業を手掛ける三井レール・キャピタル・ヨーロッパ(MRCE)と独総合電気大手シーメンスは、鉄道車両のリースと整備を手掛ける折半出資の合弁会社を設立すると発表した。合弁設立の手続きは、関係当局の承認を経て年前半に完了する見通しだ。
- 日本通運は、高級ファッションブランド向けのアパレル物流を手掛ける伊トラコンフ(Traconf)の全株式を取得することで合意した。
剣道では、世界選手権に向けた英代表チームの選考試合がほぼ終了したところだ。あと1度、週末に試合をすれば、選手選びにとりかかることができる。楽しみだ。
Originally published by NNA in March 2018.
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