連載コラム・欧州M&A最前線 2018年4月
今朝のロンドンは美しく晴れ渡っているが、私は剣道英代表チームとの2日間にわたる稽古のせいで体中が筋肉痛だ。それはともかく、今回のテーマは暗号通貨(クリプトカレンシー)。中でも、暗号通貨発行による資金調達に適用される規制について取り上げてみたい。
暗号通貨の発行は通常、新規仮想通貨公開(ICO)の形をとる。これは、企業が独自の仮想通貨を発行し、取引所で売却する一連のプロセスだ。ICOでは、企業が独自の仮想通貨を開発し、開発コストを回収し、将来のプロジェクト資金を調達できるだけでなく、関心を持つ多くの人がその新暗号通貨を購入(そして取引)することができる。
一定数の多様な投資家を確保することは、鍵となる新規暗号通貨への関心を集め、市場を創出する上での鍵となる。ただ、ICOにこぎ着けるために、事前の資金調達が必要となる場合もある。これは独自の仮想通貨の開発や、暗号通貨取引所での取引を実現させるための費用を調達するプロセスだ。ICO前の資金調達では、ICOに向けて投資家の関心を確実に醸成することも目的の一つとなる。
英英金融行為監督機構(FCA)は、純粋形式(コイン)での暗号通貨を規制していない。2017年9月12日にICO投資に関する一般投資家への警告を発したが、その中で、ICOの大部分はFCAの規制保護対象にしない方針を示している。
暗号通貨は主に既存の金融機関や政府機関の枠外で用いられ、通常はインターネットを通じて売買される。暗号通貨の市場規模を正確に測るのは難しいが、このほど公表されたデータによると、2017年12月時点で6,000億ドルを上回り、1日当たりの取引高は最高5,000億ドルに達している。また、推計1,800種類以上のデジタル通貨が存在し、その数はなお増え続けているという。暗号通貨市場は急速に拡大中で変動も激しいが、既存システムを打破する脱中央集権的な構造に魅力を感じる投資家も多い。
暗号通貨は、伝統的な意味での「通貨」やカネではない。発行済み暗号通貨の単位には、「コイン」と「トークン」の2種類がある。コインは暗号通貨の「純粋な」形式で、独自のブロックチェーン技術に基づいて発行・運用される。トークンは、物資からロイヤリティー・ポイントまで、貯めたり他の暗号通貨と交換できるすべての資産を指す。トークンは、何らかのコインと連動させるためのスマート契約を伴う場合が多い。
当該コインが投資や証券と見なされず、資金調達が金融規制の対象となる形で行われなければ、英国内で英国の投資家を相手に行われるICO前の資金調達がFCAの規制保護対象になることはないだろう。ただICO前の資金調達は、報酬ベースのクラウドファンディングの特徴を持つ。何らかの投資利回り(報酬)の約束と引き換えに、プロジェクトへの直接投資を集める(クラウドファンディング)ことが多いからだ。
FCAは報酬ベースのクラウドファンディングを明確に規制していないが、英消費者保護法はこれに適用される。同法では、出資者が「消費者」に分類される場合、取引成立から14日以内であれば、発行企業は投資資金の全額返金に応じる義務があると定めている。ただ、消費者の条件は個人であることだ。つまり、(個人ではなく)企業などの組織がICO前の段階で出資する場合、消費者とはみなされないため、こうした保護の対象にはならない。
このほか、他の規制や監督の対象にならない場合でも、第三者から計1万ユーロを越える資金を受け取る場合には、マネーロンダリング(資金洗浄)防止ルールが適用されるほか、第三者からの個人情報受領を伴う場合には、データ保護ルールが適用される。
このテーマに関する詳細情報については、下記リンクを参照されたい。
4月の興味深い取引を以下に挙げる。
- 武田薬品工業は粘り強い交渉の結果、アイルランド同業シャイアー(Shire)を460億ポンドで買収することで見事、暫定合意した(4月末現在。両社はその後、正式に合意)。シャイアーはロンドン上場企業で、希少疾患や注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬を強みとする。
- 眼科用検査機器や測量機器を手掛けるトプコン(東京都板橋区)は、眼科領域のデータマネジメントシステムを手掛けるKIDEクリニカル・システムズ(フィンランド)を買収した。良い取引を見る目がある。
- 三井物産も賢い動きを見せた。同社は関西ペイントの欧州子会社カンサイヘリオス(Helios)コーティングス(オーストリア)に20%を出資。急成長中で統合が進む塗料市場は、三井の世界的ネットワークとの適合性が高い。
私生活面では、9月に韓国で開かれる剣道世界選手権に向け英代表チームの選抜を終えたところだ。監督を務める私の任務の一つは、稽古で1人1人の選手が全力を発揮できるよう努めることだ。今朝の筋肉痛は、なんとかその務めを果たした証と言える。今後も一段と努力するつもりだ。過去1年にわたり選手達と毎月、稽古する中で、最も美しい日本のことわざの一つを思い出した。「一期一会」。剣道の相手と竹刀を交わす時だけでなく、日常生活でもこの言葉を心にとめて過ごしたい。
Originally published by NNA in May 2018.
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